高齢者や女性に多いと言われる「腰椎圧迫骨折」の概要についてまとめてみました。
腰椎圧迫骨折は脊椎圧迫骨折の一種で、外部から加えられた圧迫する力によって、脊椎の椎体と呼ばれる部分がつぶれてしまうことによって起こります。
脊椎は複数のパーツからなるのですが、腰椎圧迫骨折はそのなかでも第11~12胸椎と第1腰椎の胸腰椎移行部に多発するとされています。
その具体的な症状は激しい腰の痛み。
特に受傷してから骨折症状が治るまでの期間は、歩くことはおろか、寝返りを打つことさえ困難なほどの激痛に襲われます。
また症状が悪化すると、下肢の痛みや痺れ、あるいは麻痺といった、ヘルニアに似た症状を発することもあります。
さてこの腰椎圧迫骨折ですが、基本的には骨の強度(密度)が低下している高齢者や女性に多い症状と言われています。
特に、骨がもろくなる病気「骨粗鬆症」との関係性は密接で、骨粗鬆症に起因する腰椎圧迫骨折の割合はたいへん高くなっています。
そのため、骨が正常な男性、とりわけ若く健康な男性が腰椎圧迫骨折になることはあまりありません。
しかし、たとえばスポーツ事故や転落事故などによって、骨の強度以上に強い衝撃が加わってしまうと、当然骨は折れてしまいますので、腰椎圧迫骨折を発症してしまうことがあります。
冒頭で「骨がつぶれる」と述べましたが、腰椎圧迫骨折も「骨折」であることに変わりはありませんので、その基本的な治療法は、通常の骨折と同じように保存治療となります。つまり患部の固定と安静です。
具体的にはコルセットを着用(程度によってはギブスを着用)し、骨が形成されるまでベッドで安静にしていることが求められます。
それによって骨折が治癒すれば、痛みも取れてきますので、あとは徐々にリハビリをしながら、衰えた筋力の回復などに努めていきます。
腰椎圧迫骨折の原因と症状、治療法については、このあとのページでより詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
脊椎の中でも腰に近い部分の脊椎が潰れてしまった腰椎圧迫骨折は、高齢者に多い骨折です。高齢患者の場合、腰椎圧迫骨折の原因は骨がもろくなってしまう骨粗鬆症によるもの。転倒や事故などの外傷により腰椎圧迫骨折になるケースは若い方が多いと言われています。
高齢で腰椎圧迫骨折になってしまった場合、治療期間中に身体を安静にすることで全身の筋力が低下してしまう廃用性症候群や寝たきりのリスクも高まります。体力や筋力を維持するためにもリハビリなどで運動をしたいと思う方もいるかもしれませんが、腰椎圧迫骨折になった場合に運動をしても大丈夫なのでしょうか?
そもそも腰椎圧迫骨折の治療は骨折の程度や症状により、保存的治療と外科治療のどちらかを選択することとなります。保存的治療の中のコルセットなどで患部を固定して骨折部を安定させる治療で安静にすることは急性期には大切ですが、安静にして動かない期間が長くなれば寝たきりを誘発したり、椎体の変形率が高まったりする可能性もあると言われています。
骨粗鬆症生圧迫骨折の急性期には安静が必要であるが、安静臥床期間が長くなると、その後に強固な外固定を併用しても椎体の変形率が高くなるため、早期からの離床が必要であることを強調している報告がある
安静にしている期間に筋力が低下し、寝たきりになることを予防するために腰椎圧迫骨折では、一定の安静期間が過ぎたらリハビリを行うことが一般的です。リハビリがスタートするタイミングの目安は、コルセットの着用などで痛みが軽くなってきたタイミングです。
リハビリテーションは理学療法士などの専門資格を持ったスタッフが、症状や痛みの程度などに合わせて運動を組み合わせ、指導、サポートしてもらえます。腰椎圧迫骨折と診断され、筋力低下が心配だからといって自己判断で運動をしてしまえば、回復を遅らせたり、症状を悪化させたりする可能性がありえます。
圧迫骨折後に日常生活にいち早く戻るために運動をしたいと思っているなら、まずは医師や理学療法士などにどんな運動が適切なのかを相談してみましょう[1]。
腰椎圧迫骨折の治療期間は、症状の程度にもよりますが、およそ2〜3か月程度で長い場合では半年程度が一般的です。コルセットを使って患部を固定する保存的療法を取る場合には、だいたい3〜4か月ほどコルセットを着用する必要があります。また、腰痛圧迫骨折が原因で神経や脊髄などにも影響が出ているなどの理由から手術を行った場合には、日常生活には比較的すぐに戻れ、3〜4か月で治療が完了することもあるようです。
腰椎圧迫骨折の治療を早めにスタートでき、脊髄の圧迫やそれに伴う神経症状がなければ治療後に後遺症が残らないで済むケースも多々あります。
しかしながら、圧迫骨折で神経症状が出ている場合には、痛みなどの症状が後遺症として残ることも大いにありえます。後遺症として残る可能性がある症状としては、背骨の曲がりや歪み、神経麻痺、歩行障害、膀胱直腸障害などが考えられます。
骨粗鬆症が原因で腰椎圧迫骨折を引き起こしている場合には、骨折の再発も考えられますから、「おかしいな」と思ったらすぐに診察を受け治療を始めましょう。
また、交通事故などで腰椎圧迫骨折になってしまった場合も変形障害や運動障害などといった後遺症が残る場合があります。こうしたケースでは事故の相手方との保険手続きで「後遺症が残った」として認定されることがありますので、保険会社などに相談してみるといいしょう。
腰椎圧迫骨折は、胸椎圧迫骨折とならんで、高齢者で発生しやすい骨折の一つです。 また、転倒した際に手をつくことで起こるコレス骨折(前腕部での骨折)や、転倒時に脚を捻ることで起こる大腿骨頸部骨折とも並ぶほどです。
腰椎での圧迫骨折は、第1~2腰椎で発生しやすいと言われています。
また、高齢になるほど発生率が高まることが、既に報告されています。
骨粗鬆症を素因とし、脊柱(背骨)がもつカーブがこの部分では見られないこと、胸椎では前方に骨や臓器があることで守られていることに対し、圧迫骨折を引き起こしやすい部分は前側に骨がなく、尻もちをついた際に加わる衝撃がもろに椎体に伝わることも、原因となっています。
腰椎圧迫骨折を受傷すると、椎体が潰れる他に、椎体が割れて本来あるはずのない関節が形成され(偽関節)、背骨が不安定になったり、変形によって姿勢に大きく影響します。 また、体を動かす際に激しい痛みを訴え、日常生活動作も制限され、身の回りのことができなくなってしまいます。
では、腰椎圧迫骨折後には、どのような治療が行われるのでしょうか。
腰椎圧迫骨折後の治療では、多くの場合、保存療法が選択されます。
保存療法とは、手術などは行わずにある程度の期間安静を保持した後、コルセットなどを使用したうえでリハビリ(理学療法)を実施するという治療法です。
腰椎圧迫骨折後は、2週間程度の安静期間が必要となります。
これは、痛みによって動くことが困難となることもありますが、椅子に座ったり立っている姿勢では、骨折部に体重と同程度の重さがかかり、骨折部に過度の負荷をしてしまうためです。
また、安静期間には、ベッドの頭側を30度程度起こす(ギャッジアップ)ことは認められています。
ただ、腰椎圧迫骨折が高齢者に多く、その高齢者が2週間もの長い間ベッド上で安静にしていると、容易に筋力が低下し、その後の日常生活動作やリハビリの進み具合を不良なものにしてしまいます。
ですから、安静期間とはいっても、痛みが我慢できる範囲内で脚の運動や、体幹の動きを伴わない腹筋や背筋群の運動は必要となります。
その後、コルセットを付けて痛みが軽くなる時期になったら、ベッドから起き上がり、歩いたり積極的な筋力トレーニングなどの理学療法がおこなわれます。
圧迫骨折を受傷する高齢者の多くは、骨粗鬆症の他に、受傷前の生活様式の特徴から全身の筋力が低下している傾向にあるため、あれば内科的なリスクを管理しながら積極的な筋力トレーニングを実施します。
また、骨折した腰椎部に負荷がかかりにくいような体の動かし方、特に痛みが強く出現しやすい起き上がりの方法などを指導します。
この際、体幹にはコルセットを装着しますが、理学療法開始初期は恥骨から鎖骨まで、体幹全体を抑える硬めの素材でできたコルセットを装着します。
体幹の動きが極端に制限されるため、起き上がりや立ち上がりなどの動作はかなり制限されますが、その分骨折部への負担を少なくできるので、痛みを抑えることができます。
また、立った時の姿勢や歩き方も評価され、再転倒による再受傷を予防するための動作方法の指導も行われます。
腰椎圧迫骨折後の手術療法については、スタンダードと言われる治療法がないようです。 しかし、椎体が圧迫されることによる偽関節が発生し、体幹が不安定な状態では、手術も検討されます。
その方法の多くは、ねじやピンなどを使用し、腰椎などの椎体を固定するという方法です。
また、本来1個の骨であった部分が骨折によって亀裂が入り、その部分で偽物の関節(偽関節)が形成されているような場合には、上下椎と関節を構成する部分は温存したまま、偽関節より前(腹)側の椎体を切除したり、体の他の部分から骨を切り取って骨移植を行う方法などが行われています。
手術による治療の場合も、術後に一定の安静期間を設けたのち、コルセットなどを装着しながら理学療法を実施していきます[2]。
腰椎圧迫骨折の場合、特に脊椎の異常がなければ、通常はコルセットなどで固定をして回復を待つ保存療法を行います。
しかし、腰椎圧迫骨折の症状が重度の場合、脊椎の神経圧迫を引き起こしたり、骨折の状況によっては保存的治療の効果が見られない場合もあります。
特に高齢者の場合、下半身の麻痺により排便や排尿の麻痺を起こしたり、痛みが強いために動くことができず、そのまま寝たきりになってしまう可能性もあります。
こうした症状を改善するために、手術での治療が必要となりますが、腰椎圧迫骨折の手術は、特に高齢者にとってリスクの大きい手術です。
腰椎圧迫骨折における手術は、骨折した骨の中に人口の骨を入れて、骨自体を補強します。 その骨が固まるまで、さらにつぶれてしまうことを防ぐために、上下の椎体を連結するという方法です。
また、脊髄の圧迫が起きてしまっている場合には、脊髄の圧迫を除去するための手術も同時に行います。
腰椎の圧迫骨折のほかに、粉砕骨折や脱臼なども起こしている場合には、手術をすることで脊髄にさらなる損傷を与えてしまう恐れがあるため、まずは「頭蓋直達牽引」という処置を行い、それから専門の施設に移動して治療を行います。
手術をすることで、神経の圧迫による痛みが緩和される可能性は高いですが、骨折自体を治す手術ではないので、骨の融合の経過を見守ると同時に、骨粗鬆症が原因で腰椎圧迫
骨折を起こしていたのであれば、骨粗鬆症の治療を継続する必要があります。
痛みの緩和については個人差があり、すぐに楽になる人もいれば、なかなか楽にならない人もいるため、状況に応じて鎮静剤などを用いた治療をしていきます。
また、腰椎圧迫骨折によって普段通りに体を動かすことができない状態が続くと、転倒などでほかの部位の圧迫骨折を引き起こしてしまう可能性もあるため、日常生活の中で圧迫骨折の予防を行うことも重要です。
手術を行わず、安静にして骨の融合を待つ場合は、かなりの期間が必要となります。
また、腰椎圧迫骨折における安静は、腰に負担がかかる動きを一切してはいけないので、絶対安静の状態を保つことが必須です。
「絶対安静」とは、トイレなどのために動くことも基本的に禁止される、かなり厳しい案正常値を指します。
通常の「安静」では、トイレに立つことは可能だったり食事のために移動することができるなど、安静にも段階があるのですが、「絶対安静」は、その中でももっともレベルの高いものだと理解するとよいでしょう。
まったく動かないということは難しいですが、腰に負担のかからない状態で、2週間から4週間ほど安静にしていると、少しずつ骨が硬くなってきますので、それまでは絶対安静が必要です。
ある病院では、手術をせずに入院して腰椎圧迫骨折の保存療法を行った高齢者の入院期間は、平均して30日前後というデータがあります。
ちなみに、ある程度骨がした後は、少しずつ動いたり、リハビリを行うなどの治療に入りますが、つぶれてしまった骨がもとの硬さに戻るまでには、3ヶ月かかるといわれています。
腰椎圧迫骨折の手術をした場合、病院によって入院の流れは異なりますが、発症してから手術を行い、その後回復期リハビリテーション病棟に入院するケースもあります。
この場合は、発症から2ヶ月以内に回復期リハビリテーション病棟に移ることが条件となっている病院もあるようです。
また腰椎圧迫骨折手術までの入院期間を除き、回復期リハビリテーション病棟に入ってからの入院期間を90日と定めている病院もあります。
90日間の間に、リハビリを含め日常生活に支障ない程度の動きができるようになることを目的とした治療が行われます。
【参考URL】
参考[1]:亀田メディカルセンター 圧迫骨折
参考[2]:「骨粗鬆症性脊椎椎体骨折」元文芳和