腰椎圧迫骨折の治療法と、治癒後に必要なトレーニング(リハビリ)についてまとめてみました。
腰椎圧迫骨折の治療法は、他の骨折症状と同様に、患部を固定して安静に保つ「保存治療」が基本となります。
その際の留意点は主に3つあります。
【1】受傷後1ヶ月くらいの間は骨折部が変形しやすいので、しっかりと固定することが重要になってきます。そのためにも柔らかいコルセットではなく、硬めのコルセットを使用すること。骨折の程度次第では、ギブスを身体に巻きつけて固定することも必要になってきます。
この治療法は、一般的に「外固定療法」と呼ばれます。うち固定療法が手術による治療であるのに対し、外固定療法はギブスやコルセットによる治療が中心。中でもギプスによる固定は外固定の中でも診断直後からできる治療方法です。また、コルセットは硬いほうが偽関節形成率が低いため、望ましいとされています。
一般的にコルセットには硬性コルセットと軟性コルセットがある。硬性コルセットと軟性コルセットの有用性に対する他施設前向き研究の結果では、偽関節率は硬性型が2.5%、軟性型が6.5パーセントと有意差がなかったが、軟性型で高い傾向を示した。〜中略〜しかしながら、偽関節形成率が低い硬性コルセットが望ましいと結論づけている。いずれの場合も、固定範囲は骨折椎体の上位数椎体までしっかりと固定しなければならないため、患者はこれを不快に感じ、着用を嫌がることも少なからず経験する。
【2】留意すべきは、身体を極力動かさないこと。一見当たり前のことのように思えますが、たとえばトイレに行くために起き上がるといった動作も大きな負担になりますので、頻尿の方などは尿の回数を減らすための薬を服用することも時には必要です。
ただし、最近では高齢の方の場合、安静にしている時間が長くなると筋肉量や骨密度などが低下し、そのまま寝たきりや認知症へと進展するリスクも指摘されるようになりました。例えば、骨粗しょう症性圧迫骨折患者7例を対象に、3週間の安静臥床後の骨密度を比較検討した研究では、骨盤の骨密度がなんと7.3%も低下してしまっていたそうです[1]。
圧迫骨折の安静治療を検討する際には、こうした安静臥床による筋力・骨密度低下で新たに骨折リスクが増える可能性も考慮する必要があるでしょう[2] 。
参考[1]:「3週間の床上安静を負荷した骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折患者の骨密度, 筋肉量, 脂肪量の変化」中部日本整形外科災害外科学会雑誌,47(1),2004
参考[2]:「新鮮脊椎圧迫骨折に対するクロスバンド式胸腰仙椎コルセットの使用経験」整形外科と災害外科,54(1),2005[PDF]
【3】留意点というほどではありませんが、布団よりはベッドの方が寝起きがしやすく身体にかかる負担も少ないので、ベッドの使用がおすすめです。
脊椎圧迫骨折の急性期はベッドで安静に過ごす時間がある程度必要なものの、その期間は予後の回復のためにもできるだけ短いほうがいいというのが現在の主流の考え方です。とはいえ、どのくらいの期間がいいかに関しては医師の経験によるところが大きいのも事実。痛みの程度に応じて、少しずつベッドの角度を上げていき、座った姿勢や立位などが取れるように進めていくケースもあります。
ベッドは背もたれの角度を調節できるため、起き上がりをサポートしてくれるだけでなく、このように回復の程度に合わせて角度を調節できる点も布団とは違うところです。
ただしベッド・椅子に限らず座る姿勢によって痛みを引き起こすリスクは変わり、圧迫骨折の方にとっては背もたれに寄りかかるようなリラックスした時にとる座る姿勢は、骨盤が後ろに倒れて骨折部にストレスをかけることから痛みが強くなりやすい姿勢という点は注意したほうがいいでしょう。
参考:「ギャッジアップ角度の増加に伴うベッド上臥床時の脊椎カーブの変化」理学療法科学,26(5),2011 [PDF]
上記のような安静状態を保つことで、3~4週間程度(早い人なら2週間程度)で損傷した骨は形成されていきます。そのようにして骨折が治ると、体動時の痛みも完全になくなります。
しかし、まだまだ油断は禁物。治療期間中に安静を保ったことで腰の筋力は低下し、ちょっとしたことでも疲れやすい状態になっています。たとえば家事をしたり、あるいは長時間座っているだけでも腰が痛んでくることも…。
もちろん骨折時に感じた激痛とは異なり、あくまでも鈍痛レベルのものではありますが、痛みを感じたら無理せず横になりましょう。15分~20分もすれば、すぐに楽になるはずです。
骨折が治ったあとは徐々に身体を慣らしていくのがポイント。と同時に、背中に筋肉をつけるためのトレーニングや、再び転んで圧迫骨折してしまわないようにバランス感覚を養うトレーニングを行うことも併せて大事になってきます。
圧迫骨折後は、容体の回復に合わせて急性期・回復期・退院後のそれぞれのフェーズでリハビリテーションや再発予防に取り組むことになります。
姿勢や動作に応じて様々な動きをする脊柱。中でも腰椎は屈伸による動きが大きい点が特徴です。腰椎圧迫骨折後のリハビリは、診断名が同じでも骨折の程度や箇所、血管や神経を傷つけているかどうか、合併症の有無、本人の体力・年齢などによって適したアプローチを取る必要があります。
基本的に急性期における圧迫骨折は保存療法が原則です。リハビリも一定期間の安静の期間を経て、医師や理学療法士の判断でリハビリを行っていいかどうかが判断されます。これまでは、圧迫骨折後は2〜3週かんの安静期間が必要と考えられていましたが、体幹ギブスで外固定をしたとしても、安静期間があるからといって椎体の変形や偽関節の予防は完璧には予防できないことも最近の研究で明らかになってきています。そのため病院によっては、積極的に圧迫骨折後も離床させ、結果的に何らかの問題が生じた場合には外科手術による治療を行うという方法を取っているケースもあるようです[1]。
回復期になれば、コルセットを装着した状態であればリハビリなどを行って低下した筋力を回復汗、原因が骨粗鬆症であれば骨粗しょう症の治療も並行して行われます。回復期のリハビリテーションで大切なのは、腰椎圧迫骨折後の痛みをコントロールしながらバランス能力、歩行能力をいかに高めて日常生活動作の低下を予防するかと言う点です。
胸腰椎圧迫骨折(圧迫骨折)後,疼痛やバランス能力,歩行能力の低下により ADL が低下するケースは多い。また,急性期病院での入院期間延長により,廃用症候群や認知機能の低下をきたし,回復期病院へ入院するケースも多く認める。しかしながら圧迫骨折患者の歩行予後について急性期での報告はあるものの回復期病院退院時の報告は少ない。また圧迫骨折受傷前の歩行能力が考慮されていない報告が多いという問題点がある。出典:「回復期リハビリテーション病院における胸腰椎圧迫骨折患者の歩行予後に与える因子の検討」Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集) [PDF]
回復期リハビリテーションの目的の一つが、骨折前の歩行能力をいかに取り戻すか、という点です。筋力やバランス能力を取り戻すためのリハビリテーションは、患者さんの症状や年齢に合わせてリハビリが行われます。
最近ではロボットスーツにより、低下した筋力を補いながら理論的に患者さんのリハビリをサポートする技術なども病院では導入され始めています[2]。
次に、退院後の生活についてです。圧迫骨折後どのタイミングで自宅生活に戻るかは骨折の程度や痛みの程度、本人の希望なども考慮されることとなります。いずれの場合でも、退院後の生活ではできる限り腰を無理して動かさないことが大切です。病院に定期的に通うことが難しいのであれば、訪問リハビリテーションなどのサービスもあります。リハビリをしっかりと継続できるよう、医師や理学療法士に相談してみましょう。
参考[1]:「骨粗鬆症性脊椎椎体骨折に対する保存治療の検討」中部日本整形外科災害外科学会雑誌,59(1),2016