ここでは、内視鏡とX線透視装置を使う重度の圧迫骨折時の一般的手術法である、後方固定術(TLIF・PLIF)の手術方法などを解説しています。
3椎間以上の圧迫骨折(多発性圧迫骨折)をした場合には、椎体形成術に加え、固定術を併用することがあります。
特に脊椎が変形してしまった場合には、片側進入腰椎後方椎体間固定術(TLIF)と後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)と呼ばれる腰椎固定術を施すのが一般的です。
どちらも椎体間を固定する方法という点では共通していますが、それぞれ施術方法が大きく異なります。
片側進入腰椎後方椎体間固定術(TLIF)とは、左右どちらかの椎間関節を切除し、椎間板を摘出してから椎体を固定する方法です。
手術は内視鏡とX線透視装置を用いて行われ、まず脊椎にそって背中の皮膚を切開し、腰椎の後面を露出させたら、椎間板を切除します。
その後、人工骨または患者さん自身の骨などを詰めた「ケージ」と呼ばれる人工物を挿入。
椎体が癒合するまではケージがグラグラ動かないよう固定しなければならないため、椎弓根に穴をあけて金属(チタン)のネジを入れ、最後にネジとネジに「ロッド」と呼ばれる金属(チタン)の棒を渡します。
切除した椎間板はケージが補ってくれますし、ネジとロッドによって脊椎の安定性が高まるため、神経症状を緩和することが可能となっています。
切除するのは片側のみなので骨を温存できること。また、出血が比較的少なくて済むところがメリットと言われています。
術後は1~2日から歩行が可能となり、経過が良好であれば10~14日ほどで退院できます。
後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)は片側の椎間関節のみ切除するTLIFとは異なり、左右両側の椎間関節を切除して椎間板を摘出し、両側からケージを入れて椎体を固定する術式です。
TLIFと比べ両側の椎間関節を切除するので、体に対する侵襲は大きくなりますが、手技的にはTLIFより易しいとされています。
具体的な施術方法としては、まず腰の後方を縦に切開し、神経を圧迫している骨・靭帯を切除します。
その後、スクリューを椎体に刺入、変形した椎間板を除去して骨などを詰めた「ケージ」を打ち込み、スクリューやプレートなどで固定していきます。
TLIF同様、術後1~2日目から歩くことができます。
なお、症例によってはTLIFとPLIFを組み合わせて手術することもあるようです。
患者の症状によって異なりますが、片側進入腰椎後方椎体間固定術(TLIF)場合だと、PLIFと比べて片方の椎体関節を切除する方法なので、骨が温存できて、出血も比較的に少量で済みます。傷口も小さいので、術後1日か2日で歩けるようになります。経過が良好なら10日から14日ほどの期間で退院できます。
後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)は両側の椎間関節を切除するので、体に対する侵襲は大きくなるものの、腰椎変性すべり症や変性側弯症・後弯症などの症状に対して矯正が必要な場合などに行う手術です。PLIFもTLIF同様に術後1日か2日で歩けるようになり、2週間から3週間ほどの期間で退院できます。
以前は術後は2週間~3週間はベッドで安静にしていなければなりませんでしたが、インストゥ ルメンテーションや器械の技術が進歩した結果、短期間で歩くことが可能になりました。
リハビリなど特別なことは必要ありませんが、術前に痛くて歩行が困難だった場合は、痛みが取れてから意識して歩くようにするなど、少しずつでも身体に負荷をかけるようにしましょう。
状態よって治療期間は異なるので不安な方は事前に医師に確認をしておきましょう。
片側進入腰椎後方椎体間固定術(TLIF)の場合だと、平均的な入院日数は12~14日ほどで費用は3割自己負担で50万円前後かかります。頸椎椎弓形成術や、椎間板摘出術など他の手術と比べてもTLIFの費用は高額の傾向があります。
腰椎後方椎体間固定術(PLIF)の場合だと、入院期間2週間~3週間で3割自己負担で20万円~30万円が実費となります。他の医院と見比べても30万円弱が自己負担として支払うケースが多いです。
上記の費用は一般的なものなので、状態によって治療費用は異なります。事前に医師に確認をしておきましょう。
TLIFやPLIFはどちらも多発性圧迫骨折の治療に適した施術法ですが、外科的手術である以上、一定のリスクも存在します。
出血や感染症、血栓、麻酔による症状など一般的な外科手術にともなう合併症のほか、神経の損傷や新たな椎骨骨折の発生、残存痛などが発生するリスクもあるため、施術する病院は慎重に選ぶ必要があります。
また、術式ごとのリスクもあるため、どちらを選択するか医師としっかり相談して決めるようにしましょう。
TLIFはPLIFに比べて患者さんの体への負担が軽減されるところがメリットですが、その反面、神経の除圧操作や脊椎アライメントの矯正が難しくなるというリスクがあります。
また、PLIFではクロスリンクやネスプロンケーブルなどを使って後方インストゥルメントの固定力を補強するオプションをつけることが可能ですが、TLIFにはこうした補強は不可能なため、症例によってはPLIFより不利になるおそれがあります。
PLIFは両側の椎間関節を切除するぶん、体や神経への負担が大きくなるというリスクがあります。
特に神経に関しては術後麻痺が起こる可能性があるため、TLIFに比べてリスクは高めといえるでしょう。
圧迫骨折後に脊椎が変形してしまった場合には、低侵襲腰椎前方固定術(XLIF)という術式も選択肢となります。これは、最新の術式として脚光を集めています。
後方進入椎体固定術はどういった方に適した術式なのか、TLIF、PLIFごとにまとめてみました。
TLIFは片側の椎間板のみ切除するため、体や神経に対する負担が少なく、短期間で社会復帰できる施術として知られています。
そのため、働き盛りの年齢を含む若年層向けの術式と言えるでしょう。[注1]
[注1]日本脊髄外科学会:病態に合わせたPLIFとTLIFの術式選択についての検討[pdf]
PLIFはTLIFより体や神経にかかる負担が大きいというデメリットはあるものの、高度の脊柱変形を伴う症例の矯正を行いやすいこと。クロスリンクやネスプロンケーブルなどを使った後方インストゥルメントの補強が可能であることなどが利点です。
そのため老化による骨の脆弱性や脊柱変形を起こしやすい高齢者に適した施術方法とされています。
どちらの方法も外科手術にともなうリスクはゼロではありませんが、近年は医学の進歩にともない、施術リスクも低減されてきました。
たとえば脊柱を安定させるために使用するネジは、骨より重くてケージに沈み込みやすいチタン製のものから、優れた強度と生体適合性を兼ね備えたPEEKと呼ばれる素材をチタンコーティングしたものへの移行が検討されています。[注2]
TLIF、PLIFともに手術費用は保険適用で20万円~30万円とやや高めですが、今後ますますの発展が期待されることから、優秀な医師のもと、施術を検討する価値は十分あると言えるでしょう。